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2024年12月21日

藪田さん、リアリスト秋聲の、多面的地震描写を詳説

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徳田秋聲記念館 学芸員 藪田由梨さんの講演は
今回でついに第7回目となりました。
 
この間、自然主義文学の最高峰であれど、現代においてはその秀逸さがイマイチ伝わりきれていない、と
(筆者だけがそう思っているだけかも)思われている徳田秋聲文学の真髄を明らかにし、
本当の値打ちを明らかにし、その作品を読む愉しみを我々に伝授して頂きました。
 
徳田秋聲文学における人間描写は、だれかれと理不尽な差別をすることなく、
淡々と、ありのままに、あるがままに、人間生活の自然な流れ、そして、その行き着くところ、を著す
ところに最たる特徴がある、と教えて頂いた気がします。
 
秋聲文学の、自然主義たる文学性は「こういうところにあるのだ」という、藪田さんの
解明の数々。いずれも聴講していて、聴いている者の「蒙」が啓け、「霞」が晴れる
気がしたものです。
 
また、秋聲の交友関係を様々なエピソードを交えて浮き彫りにして頂き、
秋聲の人間像を我々に至近距離化して頂いた感がありました。
 
さて
今回(令和6年12月21日)のテーマは「 『余震の一夜』 ― 関東大震災と秋聲 」です。
 
時は大正12年9月1日、
関東大震災発災時、秋聲は所用のため金沢に帰郷していました。
妻子7人は東京・本郷の自宅にいました。
よって秋聲自身が直接この大地震を肌身をもって体験したわけではありませんでした。
金沢も震度3位の揺れがあったようでしたが、今日と違って情報伝達が闊達でない
大正12年ですから、翌日、翌々日の新聞報道がほぼ唯一の情報源でした。
次第に大地震における東京の様子が分かってきます。
 
藪田さんがスライドで示された、当時の東京の大地震被災地図では
幸い、秋聲の本郷宅が、僅かに、激甚なる被災地域から外れていたことを
を示しています。
 
全くの、被災当事者ではなかったので、この関東大震災を題材にしての
冷静なる小説、随筆を著せたのでしょうね。
 
震災時の、漠たる不安、自分の身内の安否につての不確かさの状況下での不安、
また、いろいろ仕入れた情報もとにしての、自身を大地震経験者と見立ててのリアルな
状況、心象風景 等々、を秋聲は私たちの眼前に、複数の小説、随筆等の作品で
展開してくれています
 
小説は小説ですが、自然主義者リアリストの秋聲の著述ですから
まるでルポルタージュの如き描写があります。
東京などの大都市の、一極集中を建設的に批判する評論家の眼を
感じます。
被災地域の復旧・復興についての合理的方策の提言もしています。
 
ですが、そこは小説ですから、いろんな人達の、その立場立場からの
深い心理描写がなされており、災害に遭遇した人たちの、まとまった
物語としての完成をみている、と思いました。
 
藪田さんの講演は、いつもながらシャープで、シンプルで、それでいて
決して平板に終始するわけでなく、そこかしこに起伏が散りばめてあり
聴いていて時間の過ぎることの早いことはやいこと。
また、引用作品の紹介は、その軽やかで、リズミカルな美声での
「読み上げ」でおこなわれますので、まるで「朗読会」のような趣きなのです。
 
秋聲さんの「値打ち」に触れられ、藪田さんの「スター」性にも触れられる
得難い講演会でした(そしてこれからも)。
 
かくして、第7回目の「藪田劇場」は終演となりました。
 
藪田さん、いつもながら本当に有難うございました。
 
当講演会の続く限り、これからもその煌めく「叡智」をご披露下さい。
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