2025年2月15日
穴倉さん、能登を題材の鏡花、柳田、雪岱のコラボ作品解説
「歴史と伝統文化講演会」にての、泉鏡花記念館 学芸員・穴倉 玉日さんの
講演会(令和7年2月15日)は3回目となります。
昨年も同じような時期(令和6年2月17日)でした。
昨年は「鏡花生誕150年~存在をつなぐということ~」というテーマでした。
鏡花の終の棲家(通称「番町の家」)を再現した「再現!番町の家」を
我々もネット検索で訪問できることを教えて頂きました。
鏡花の人物像がぐっと身近に感じられ、「鏡花文学への入り」への、一種の
パスポートを与えて頂いた感がありました。
今回のテーマは「泉鏡花『山海評判記』と能登」です。
泉鏡花と民俗学者・柳田國男、画家の小村雪岱(挿絵)の大コラボ作品です。
能登・和倉温泉を主舞台にした怪異を描いた長編小説です。
鏡花の盟友・柳田國男を介して知った「オシラ神信仰」が背景となっています。
能登・和倉を観光しに来た「主人公・矢野(半ば鏡花がモデル)」の身辺に
怪異な現象が次々と起こります。
能登を綿密に取材・調査し能登の情景がしっかり叩き込まれた
鏡花に、柳田から感化された「オシラ神信仰」伝説がモチーフとなって降りかかり、
能登を舞台の怪異小説へと昇華したのでしょうか。
この作品は時事新報の新聞小説です。この物語を更に詳解する役を
担ったのは、画家の小村雪岱でした。彼の筆になる挿絵は読者のみならず
鏡花をも感嘆させたのだと思われます。
ここに当作品が鏡花、柳田、小村のコラボと言い得る由縁があるのでしょう。
「オシラ神」の本拠は東北と言われていますが、実は「白山の姫神」が本当の
本地だと作中で「邦村(柳田がモデル?)という博士」に語らせています。
鏡花は、能登の深い深い自然の中に、「オシラ神」を舞い戻らせたかったのでしょうか。
穴倉さんの、当作品についての解説は、当時の交通事情、鏡花の交友関係等を
前提として説明されての、立体的なものであり、しみじみと当作品の組み立て具合が
分かります。
ここまでお膳立てして頂きましたので、この「山海評判記」に立ち向かおうと思った
講演参加者の方は多くいらっしゃったのではないでしょうか。
泉鏡花は郷里が生んだ大文豪です。
その名声は、数々の、珠玉のような作品群が昔から今日まで、
多くの読者の心をわしずかみにしたこと、によって築かれたと思います。
夏目漱石や三島由紀夫、谷崎潤一郎など、数多くの作家が「鏡花は天才である」と
称賛したことをもって、その文壇での地位は輝く存在であり続けています。
ところが、鏡花文学にある程度以上浸り、習熟していない人たちにとっては、
鏡花文学はハードルが高い一面もあるでしょう。
現代の、通常の作家のものする小説のように、読む人の脳中に
すっと入ってゆき、その内容をたやすくイメージングできるわけではないのが
鏡花文学なのではないでしょうか。
鏡花を手に取り挫折された方もきっと多いと思います。
鏡花作品につき、全く申し訳ないのですが、寡読な私(筆者)が
たいそうなことを言える立場ではありませんが、同じ経験の方も
幾ばくかいらっしゃることと思います。
しかし、それでも一つの作品を何度も繰り返し読了し終えた時に覚える
「分かった」感、快感、征服感は鏡花作品の、他を圧するところではないでしょうか。
修辞の限りを尽くし、豊富な語彙力でストーリーを展開する鏡花文学は、
読む者の脳中に、美しいものの限りを、怪しいもの、妖しいもの、の限りを鮮やかに
展開せしめ、はたまた、登場人物の心の微妙な機微を描き出していると思います。
郷土が生んだ天才・鏡花をずっと研究され、その文学の価値をずっと
我々に紹介され、啓蒙されている穴倉さんの講演を、そしてまた
鏡花記念館でのお話をいつでも承れる我々の幸せな境遇をしみじみ感じざるを得ません。
鏡花文学に、すでに明るい方は別として、これから鏡花世界に入らんと
する人たちにとって、穴倉さんの存在は実に大きいと思いました。
鏡花文学の面白さ、美しさ、妖しさ、に心をぼ~っと委ねて読書の
愉しみに浸りたい、浸れる日はきっと来る、と思った方も多かったのではないか、
と思えた、穴倉さんの珠玉の講演でした。
金沢人で、石川県人で、読書人を自認するのであれば「鏡花」を読まずして人生を
終えることが如何に勿体ないことか。
「鏡花の世界」に分け入って、真の、読書の愉しみを獲得せずして
何の読書人たりうるか、の念でいっぱいになりました(おせっかいな話ですが)。
穴倉さん、本日はたいへん有難うございました。
これからもずっと、鏡花世界のナビゲートをよろしくお願いいたします。
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