2019年9月22日
歴史と伝統文化講演会 ー 「 徳田秋聲を考える」
今年度で第6回目の実施となる尾張町商店街「歴史と伝統文化講演会」の、令和1年度第4回目(今年度は全部で10回シリーズ)の「 徳田秋聲を考える」と題した講演会は令和1年9月21日(土)藪田 由梨 さん (徳田秋聲記念館 学芸員)を講師にお招きし、多数の方の参加のもと、盛大に開催されました。
藪田さんは 当講演会でのご登壇がついに4回目となりました。歴史家の「屋敷 道明」先生以外では最多のご登壇となります。藪田さんの お話を楽しみにされている方が多きゆえの、自然な帰結なのです。
薮田さんを通して「徳田秋聲」を聞くのか、「徳田秋聲」解説を介して「藪田さん」を聴くのか、どうもそこのところは境界が不分明となってきている感があります。(後者は、題材は何でもよいから とにかく「藪田さん」を聴きたい、というようなことです。)
4回目のご登壇ともなれば、「藪田さん」を聴きたい、「薮田さんの文学観」に触れたい、浸りたい、というのが第一義的に目的化してきている方もおられることでしょう。
そういうことで、薮田さんの講演は数えて4回目。
講演の内容も回を追うように深化しています。
先ずもって、予めお断りをさせて頂きたく存じます。
浅学菲才の私(筆者・報告者-老舗交流館の担当係員の私)ごときでは 薮田さんの、高度な内容を有する講演を詳らかにお伝えするにつき、なかなかのハードルの高さが 眼前に聳えているのを感じざるをえません。
この報告は、まったく文学的素養の乏しい私のなせる感想文でありまして、そこかしこに間違いが あるかもしれないことをお断りしておきます。 当ブログの読者諸氏、講演会の参加者の方々、薮田先生、におかれまして、あそこは違うよ、 そんなこと言ってないよ、なんてことがありましたら どうぞご指摘ください。速やかにこのブログの 訂正をいたしますゆえ。
4回目ご登壇の薮田さんは、4回目ということもあり、「徳田秋聲」をじっくり煮詰めた講義を なさいました。 講演後、参加者の感想がちらほら聞かれました。
「すごかったね、素晴らしかったね」、「・・・学問でしたね(大学で聴く講義みたい・・・の意)」。
まさに、円熟の講演だったと思います。
しかるに演者たる薮田さんはというと、依然と初々しく、まるで女学生然としていて、ずっと 永遠の、鮮やかな緑の初夏のごとき若やいだ乙女の体(てい)での講演でした。
講義内容の「円熟」と、薮田さんの帯びる「新鮮、初々しさ」との対比が、ことのほか 印象深い講演でした。
このような(上記の)対比あるいは対極とでもいいますか、そういった相反的なものが 講演の内容にも現れていました。
薮田さんは、かつて「中原中也記念館」に学芸員として勤められ、現在は「徳田秋聲記念館」の学芸員としての 立場におありです。
両巨人に通暁されている、得がたい方なのです。
そんな薮田さん、「秋聲を考える」という当講演で、天才「中原中也」を引用・引き合いに出されました。
中也作「酒場にて」中の、「ほがらか」という言辞を引き合いに出され、これを対称軸に「中也」と「秋聲」をそれぞれ 対極に位置させ、「秋聲」の特徴を抽出し、「秋聲」という人を炙り出されました。
本当に見事な技法であったと感嘆させられました。
中也の謂う「ほがらか」とは、他人に合わせる「ほがらか」とは違い、己の気持ち、感情に素直に己を発現させること、 というふうに筆者は受けとりました。他方、「秋聲的ほがらか」とは、他人の中で他人と旨くやって行くために ことによったら 己の真情をある程度抑制しての、旨く処世できるべき心の持ちよう、態度、であると受け取りました。
秋聲作品を巧みに引用しての、具体的な「ほがらか」さの表象事例をいくつか挙げられ、また、中也の「ほがらか」に対する アンビバレンツ的感情を表す詩を引用され、はたまた、(文学の)諸大家の「秋聲」評をも例示され、まことに立体的に、遠近的に 秋聲文学というもの、秋聲の文学的態度、というものを薮田さんは聴衆の眼前に詳らかにされたのです。
私(筆者)の理解が間違っていなければ、本日の薮田さんの講演はこのようなものだったのではないでしょうか。
中原中也と徳田秋聲の、人を見るときの眼の角度の違い、「ほがらか」観の違い、作家・文学者としての処世観の違い、 これらの対極の妙でもって 薮田さんは、秋聲も中也をも解き明かして下さったのです。
「秋聲」と「中也」の双極を知悉し、これを文学的糧にされている薮田さん・・・とても良いバランスの籠められた研究者さんなのですね。
薮田さんが斯界において ますます輝かれることを祈念してこの稿を締めさせて頂きます。
そして また次の機会があることを切望いたします。( 第5回目を )
斯界における「恒星」のような薮田さんの講演に接して、感嘆の思いがさめやらぬうちにこの稿を起こしました。 乱文、おゆるしを。
次回は、10月19日(土)「 伝統の中の独自性」(講師:徳田八十吉陶房 四代 徳田 八十吉 さん)です。
かの 徳田八十吉 さんのご登場です。特別講演と銘打っての「四代 徳田八十吉」さんの
講演です。
どうぞ お楽しみに !!!