2016年11月20日
歴史と伝統文化講演会 ― 武士と加賀毛針
尾張町商店街「歴史と伝統文化講演会」の今年度第6回目(今年度は全部で10回シリーズ)の「武士と加賀毛針 ~ 440年の歴史と技術の原点を知ろう ~ 」と題した講演会は11月19日(土)、目細 伸一 氏(目細八郎兵衛商店 会長)を講師にお招きし、多数の方の参加のもと、ここ尾張町老舗交流館にて開催致しました。
本日の講師を務められました「目細八郎兵衛商店」 会長の目細伸一氏は 天正三年(1575年)創業の同商店の第19代目を勤められた方です。 (現在のご当主さんは20代目となる息子さんです。)
話はいきなり余談になりますが、氏の語り口が、とても柔らかい関西風だったので お生まれは金沢ではなさそうと思っていたところ、氏の目細家の19代目となったいきさつ に話が及び、お生まれは兵庫県小野市とお伺いし、納得が行きました。 ご縁があって目細家にお入りになり19代目としての重責を担われたのでした。
講義は、氏がお持ちいただいたDVDを用いながら「目細八郎兵衛商店」の来歴、(「鮎つり」 に使われる)加賀毛針の製法のご説明、ご紹介を頂きました。
毛針のサンプルや、材料のひとつである「赤マムシ」の皮なども説明に使われ、参加者の興味・関心に 訴えるところ大いなるものがありました。
筆者にとって特に耳新しかったのは、「鮎」は昆虫は食べないとおっしゃられたことです。 加賀毛針を、虫に見立てた「疑似餌」として、鮎がそれに食いつくと思っていた私には驚きでした。
信州大学で鮎の好きな色を調査研究したところ、鮎は「赤色」が嫌いなことが判明したそうです。 ところが赤の毛針を使うとよく釣れるのだそうです。
鮎は、嫌いなものを自分の領域から排除しようとして、この嫌いな「赤」を口で領域外へ追い出そうと するのではないか、と説明されました。
加賀毛針の、きらびやかな色と光に鮎が反応する、というようなことだそうです。
もうひとつ氏の講義から感銘を受けたのは、目細家と泉鏡花との関係です。 目細家17代目の夫人であった「てる」さんは、泉鏡花とは「またいとこ」の関係にあったそうです。 泉鏡花が青年期、煩悶の末、百間堀に入水自殺を図ろうとしたのを「てる」さんが助けたのだそうです。 この「てる」さんの活躍なくば、文豪として名を馳せた泉鏡花はなかったのでしょうね。
もともとは藩政期の加賀藩において武士の内職仕事により作られていた毛針を、 釣具としての機能を発展さたのはもちろん、さらには、かくも優美な工芸品の域にまで引き上げた 目細八郎兵衛商店の功績の偉大さには感嘆させられます。
「毛針を見ていると、その中に鏡花の世界の「幽玄」「妖艶」を感じ取ります」という 目細伸一氏の言葉が、この加賀毛針の芸術的側面をも大いに物語っています。
次回は、12月17日(土)「初めての能と謡にふれよう ~ 能のお話と謡を体験しよう ~ 」(講師:シテ方宝生流 能楽師 藪 俊彦 氏)です。