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2018年5月20日

歴史と伝統文化講演会 ー 秋聲文学とのつきあい方

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今年度で第5回目の実施となる尾張町商店街「歴史と伝統文化講演会」の、平成30年度第1回目(今年度は全部で10回シリーズ)の「 秋聲文学とのつきあい方 」と題した講演会は5月19日(土)、薮田 由梨 氏(徳田秋聲記念館・学芸員)を講師にお招きし、5月とは思えぬ寒中にもかかわらず多数の方の参加を頂き、ここ尾張町老舗交流館にて開催致しました。

 

薮田先生の、当講演会での お話はこれで3回目です。

第1回目は平成28年5月に 「 金沢の三文豪 」というテーマで、また 第2回目となる昨年7月には「 詩人 中原中也 」というテーマで講演して頂きました。

いずれも参加者全員の心にしみわたる珠玉の名講演でした。

郷土の生んだ三文豪、金沢とのゆかりある中原中也、の人物描写、文学的特徴・技法・背景を存分に語って頂いたことがまだ記憶に新しいところです。

 

薮田先生ご登壇に対する皆の熱い思いが、今回の、第3回目の講演実現という運びになった次第です。

 

一般に、三文豪の中で一番地味だと受け取られている「秋聲」文学。

 

この「秋聲」文学への いざない に腐心されたのが今回の薮田先生の講演でした。

今回 先生は本日の任務が、秋聲文学の特徴紹介・読み方紹介と決心されていたようで 「折鞄」、「過ぎゆく日」、「リボン」、「好奇心」の四つの作品を例にとり、秋聲文学の読み方、 味わい方、を明快に解説され、皆(聴衆)を徳田秋聲ワールドに導いていただきました。

とくに、この「折鞄」なる作品に出会って先生はたいへんな衝撃を受けたそうです。 この作品で先生は秋聲文学の魅力に気づかれ、秋聲の読み方を会得された、とのことでした。

ロマンも、耽美も、感極まるストーリー展開もない「自然主義文学」ではあるが、それの極致を行く「秋聲文学」の持つすごさを感得したのがこの作品とのことでした。

この作品中の、妻の死に接したときの描写の、あまりにもの「あっさりさ」に先生は秋聲文学の (自然主義文学の)真骨頂を見出されたとのこと。

「 急に消え去るのが 人の死 」だと。

 

高橋 勲 監督の、スタジオジブリ制作のアニメ「おもいでぽろぽろ」に先生は「秋聲」性を感じた というようなことをおっしゃっていました。

何という薮田先生の感性の素晴らしさ、その文学観の秀逸さ、・・・ 講演終了後 「秋聲 」は早く手にとって読みたし、「おもいでぽろぽろ」はビデオを借りてきて再び見たし、 との思いにかられたのは私(筆者)だけだったでしょうか。

 

先生の手にかかり、ちょっとわかりにくい「自然主義文学」、「秋聲文学」の良さが、皆の前に開陳されたのです。

 

何の虚飾もなく、淡々と、ありのままを述べる「秋聲文学」には、読者のその時々の心境、立場、の違いによる 解釈の多様性を許容する程度が大きいのだ・・・というような趣旨のことを述べられたような気がします。

自然主義文学を代表する秋聲文学は、ありのままの、生身の人間の真実に迫っているのだ、いろんな様々な 人間の境遇、立場をすべて描写し分けていて、人間に対する(ほんとうの)「慈しみの眼」が秋聲文学には 籠められているのだ、という理解に私(筆者)は至りました。

秋聲文学は「地味」との印象がありますが、その「地味」は味読すれば「滋味」に繋がり、人物には秋聲の「慈眼」が そこかしこに注がれているようで、この意味で「慈味」という要素もあるのではないでしょうか。

 

本日 先生は、「秋聲文学 」のエッセンスのいっぱい詰まった玉手箱を少し開けて、皆に紹介されたわけです。

 

先生の(声楽的にいえば)アルトともメゾソプラノともいえる心地よい声で 、まるでそよ風を吹き渡すがごとく、秋聲文学のエッセンスの香りを、超満員となった館内中にもたらして頂きました。

薮田先生、ほんとうに有難うございました。

 

さて次回は、6月16日(土)。

こちらも3回目のご登壇となる石田順一さんです。

いよいよ「近江町不思議」シリーズも煮詰まってきて、そのⅢを迎えます。

さて どんな興味・興趣ある話が展開されるやら、乞うご期待。

 

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